今回は、「サンクコスト効果」についてです。
結論としては
・「もったいない」には危険な罠が潜んでいることもある
・人は既に支払って取り返せない費用を取り返そうとする
・サンクコスト効果を理解することで、非合理的行動を避けられる
です。
プロスペクト理論でも示されているように、人は損失を嫌い回避しようとする傾向があります。

そして、とにかく損をしたくない一心で、非合理的な行動をとってしまうのです。
合理的に考えれば、とるべきではない間違った行動をしてしまうわけです。
その中の1つに、「サンクコスト効果」というものがあります。
簡単に言えば
もったいない
というやつです。
「もったいない」と考えることはプラスになることもありますが、場合によっては危険な罠が潜んでいることもあります。
「もったいない」と感じて考えることが、非合理的な判断や行動に繋がってしまい、余計に損失を出してしまうことがあるのです。
ではサンクコスト効果について、具体的な例などを挙げながら説明していきます。
サンクコスト効果とは

サンクコストは、日本語で言うと「埋没費用」と言います。
サンクコスト(埋没費用)とは
既に支払ってしまっていて、取り返すことができないコスト(費用)
のことを言います。
ここでの「取り返すことのできないコスト」というのは、お金に限らず時間や労力も含みます。
そしてサンクコスト効果とは
サンクコストを取り返そうとして、何かを行ったり継続してしまう心理効果
のことを言います。
もう使ってしまったお金や時間や労力を「もったいない」を感じて継続したり、さらにコストをかけたりして損失を拡大してしまうのです。
損失が拡大してしまうとわかっている場合にも、引くに引けなくなってしまうようなものですね。
サンクコスト効果は、別名「コンコルド効果」とも言い、音速旅客機コンコルドが名前の由来になっています。
コンコルドは数千億円という巨額の資金を投入して開発されましたが、開発途中で「継続しても黒字転換できない」という試算が出されました。
しかし、それまでに投資した資金を惜しんで運用を続けた結果、数兆円という莫大な赤字を出してしまったのです。
そして結局、運用は終了せざるを得なくなりました。
まさに、「もったいない」が引き起こした大惨事ですよね。
合理的に考えれば、黒字転換できないと分かった時点で最初に投じた資金を諦めて運用をやめることが、損失を最小限にできる適切な手段です。
「もったいない」という気持ちは、その合理的判断をできなくしてしまい、非合理的な判断・行動を引き起こしてしまうのです。
サンクコスト効果の実験

1985年にアメリカで行われたサンクコスト効果を証明する実験を紹介します。
2つの質問がセットになっています。
1つ目の質問は以下の通りです。
バスケットボールの試合のチケットを5000円で購入しました。
支払いは終わっていて、返金はできません。
しかし試合当日、吹雪で出かけるのも大変な天候でした。
どうしますか?
1.観戦に行く
2.家でテレビ観戦する
この場合、多くの人が1の観戦に行く選びました。
せっかくお金を払っているので、もったいないからということです。
次に、2つ目の質問です。
天候などの状況は先ほどと同じです。
しかしチケットは、自分で買ったのではなく貰ってものでした。
どうしますか?
1.観戦に行く
2.家でテレビ観戦する
この場合は、多くの人が2の家でテレビ観戦を選びました。
自分で買ったわけではないから、もったいなくないからということです。
この実験は、サンクコスト効果を証明しています。
2つの質問では、「チケットを持っているが、悪天候である」という条件は全く同じです。
また、観戦に行こうが行くまいが、その時点でのお金の変化はありません。
違うのは
サンクコスト(埋没費用)が存在するかどうか
ということだけです。
サンクコストは回収不可能なコストですから、合理的に判断をすればサンクコストのあるなしによって、判断が変わることはないはずです。
つまり合理的判断ができていれば、2つの質問に対しての答えは同じになるはずなのです。
しかし多くの人は、自分でチケットを買った場合は観戦に行き、チケットを貰った場合は家で観戦することを選択したわけです。
これは、判断がサンクコストによって影響を受けていて、非合理的な判断をしているということです。
身近なところにあるサンクコスト効果

サンクコスト効果は、私たちの生活の身近なところに溢れています。
いくつか例を紹介します。
ある本を2000円で買いましたが、しばらく読むと「全然面白くない」と感じました。
読むのは苦痛でしたが、2000円も払っているので「もったいない」と思い、最後まで何とか読みました。
2000円というサンクコストの影響を受けて、最後まで読んでいるわけです。
読むことで、2000円というお金以外に、読み切るまでの時間もさらに費やしてしまっています。
違う本を読むチャンスを逃していると言えますね。
合理的に考えれば2000円払ったことは関係なく、「その本がそのあと面白くなる可能性」と「他の本を読むこと」を比較するべきです。
貯蓄型民間医療保険に入っていましたが、割に合わないことを理解しました。
しかし5年も加入して払い続けているため解約するのがもったいなくて、そのまま続けてしまいました。
それまで支払った保険料が、サンクコストになっている例です。
利回りの悪さを考えれば、さっさと損切りをして、これから払う保険料分を優良ファンドなどで運用した方が合理的です。
解約しないことで、そのチャンスや利益を失っているわけです。
損をしているとも言えますね。
UFOキャッチャーで500円使っても、ぬいぐるみは取れません。
その後に取れる確信はありませんでしたが、すでに使ってしまった500円がもったいなくて、さらに1000円使ってしまいました。
それまでに使った500円がサンクコストになっています。
合理的な判断をすれば、「後いくらくらいでぬいぐるみは取れそうか」「その金額を出す価値はあるか」などで判断するべきです。
既に使った500円は、本来その後の判断に影響を与えるべきではありませんよね。
このように様々なところにサンクコスト効果は溢れていて、私たちはそのせいで非合理的な判断を繰り返してしまっているわけです。
サンクコスト効果への対策

サンクコスト効果への対策として
・ゼロベースで考える
・機会損失を考える
というものがあります。
サンクコストに惑わされて非合理的な判断をしないための、マインドセットです。
ゼロベースで考える
過去にとらわれず、白紙の状態で考えることです。
具体的な方法としては
支払う前の状態に戻れるとしたら、どうするか
を考えます。
本の例で言えば、内容がつまらないことをわかったうえで、買う前に戻ったら買うかということです。
買わないのであれば、読むのをやめるべきです。
支払う前の状態に戻って考えることで、サンクコストを一旦頭から消去して考えるということです。
機会損失を考える
それを続けることによって、できなかったことや失うものを考えてみる方法です。
例えば保険の例でいえば、続けた場合に保険料として支払い続けた金額を、年利5%で運用したときの金額を計算するということなどですね。
代替案の方が優れているのであれば、迷わずやめるべきです。
この方法は、サンクコスト効果によって更に出てしまうであろう損失を、冷静に考えてみるというやり方です。
まとめ

・サンクコスト効果とは、取り戻せないコストを取り返そうとすること。
・サンクコスト効果によって、合理的な判断ができなくなる。
・対策としては、ゼロベース・機会損失を考える。
サンクコスト効果の恐ろしいところは、サンクコストが時間と共にどんどん大きくなっていくことです。
仮にお金をさらに追加しなかったとしても、時間や労力というコストは経時的に増していきます。
つまり、判断が遅くなるほどサンクコスト効果は大きくなり、さらに判断しにくくなってしまうというわけです。
完全な悪循環です。
対策としては説明した通りですが、前提として自分が非合理的な判断をしてしまうということを認識する必要があります。
人は損得が関わると(特に損)、合理的な判断ができない傾向にあります。
自分では合理的と思っていても、実は非合理的なのです。
そのことを理解して、サンクコスト効果のことを把握しておけば、泥沼にはまる確率は大幅に下げることが可能です。
知識を得て考える力を養うことは、武器にもなりますし防具にもなります。
知識を得て考える力を養いましょう。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。