今回は、「睡眠と記憶の関係」についてです。
結論は
・睡眠こそが、最強の記憶術。
・ノンレム睡眠時に、記憶の定着が行われる。
・レム睡眠時に、記憶の統合が行われる。
です。
睡眠中の脳は何もしていないように思えますが、そんなことはありません。
睡眠中は、五感(視覚・嗅覚・聴覚・味覚・触覚)の刺激が脳の中の視床という部分でブロックされているため、脳は外界から断絶した状態になっています。
しかし、その代わりに睡眠中の脳内では、様々な複雑で重要なことが行われています。
睡眠中の脳には、様々な驚くべき機能があるのです。
その中でも非常に重要な機能の一つである「記憶」に関して、今回は説明してきます。
簡単に言ってしまえば
睡眠をとることで、記憶することが出来る
となります。
レム睡眠とノンレム睡眠

睡眠と記憶の関係を理解する上で、レム睡眠とノンレム睡眠を理解する必要があります。
ですから、まずはレム睡眠とノンレム睡眠について説明します。
大まかに言うと
レム睡眠 : 浅い眠り
ノンレム睡眠 : 深い眠り
となります。
レム睡眠中は夢を見て、ノンレム睡眠中は夢を見ないと言われますが、実際にはノンレム睡眠中にも夢を見ることが分かっています。
但し、レム睡眠時よりは頻度は少ないです。
レム睡眠とノンレム睡眠は、睡眠中に交互に出現する90分ごとのサイクルがあります。

睡眠中は、レム睡眠とノンレム睡眠を交互に繰り返しているのです。
ノンレム睡眠には、眠りの深さに応じてステージ1~4があります。
睡眠の最初の方では、ステージ3や4の深いノンレム睡眠が多く、時間がたつにつれて深いノンレム睡眠は減りレム睡眠が増えていきます。
レム睡眠とノンレム睡眠は、どちらが重要というわけではなく、どちらも重要で各々違う役割を果たしています。
以下は、覚醒時とレム睡眠時とノンレム睡眠時の脳波です。

レム睡眠の脳波は、覚醒時とほぼ変わらず、ランダムに激しく動いています。
それに対して、ノンレム睡眠の脳波は規則的にゆっくり動いています。
脳波を見て、ノンレム睡眠はわかりますが、覚醒時とレム睡眠を区別することはできませんよね。
専門家でも、脳波では覚醒時とレム睡眠を区別することはできないそうです。
では、レム睡眠とノンレム睡眠について、それぞれをもう少し詳しく説明します。
レム睡眠
レム(REM)睡眠のREMは、rapid eye movement の頭文字をとったものです。
つまり、レム睡眠中は眼球は動いているのです。
また、脳波を見てもわかるように、レム睡眠中の脳は覚醒時と同じような活動をしています。
さらに言えば、覚醒時よりもアクティブに活動している部位も存在します。
それは
・視空間
・運動
・記憶
・感情
を司る4部位です。
脳は覚醒時と同様かそれ以上に活動しているレム睡眠時ですが、実は体は完全に麻痺した状態で、骨格筋を含む随意筋は完全に自由を奪われた状態になっています。
つまり、完全に脱力していて身体を動かすことが出来ない状態です。
これは、夢の内容を実際に動かないようにするためです。
脳は夢を見て活動しているため、体の自由がきいてしまったら、実際に夢と同じ動きを眠りながらしてしまうのです。
眠りながら、走ったりしてしまうということですね。
そうならないために、レム睡眠時は体が完全に麻痺するということです。
脳波では覚醒時とレム睡眠時を区別できませんが、レム睡眠時は脱力しているため、筋電図で簡単に区別することが出来ます。
ノンレム睡眠
ノンレム睡眠のノンレムは、non rapid eye movement ですから、レム睡眠と違い眼球は動きません。
脳の活動は、脳波を見ても覚醒時とは全く異なります。
しかしこれは、活動をしていないというわけではありません。
脳波というのは、脳の様々な部位の活動を足し合わせているものです。
覚醒時やレム睡眠時は、それぞれの部位が勝手に活動しているために、不規則でカオスな状態になります。
それに対して、ノンレム睡眠時は無数の脳細胞が一体となり、連携活動を行っているために規則的な脳波になるのです。
とんでもなく高度なことが行われているということです。
そして、それが睡眠時の記憶に大きく関わっています。
体に関しては、筋の緊張は覚醒時に近いレベルで残っています。
睡眠と記憶

記憶と睡眠の関係は、以下のような流れになります。
1.起きている時に脳が受け取った情報は、短期記憶を司る「海馬」に蓄積される。
2.ノンレム睡眠時に、海馬にある情報を整理して、情報を長期記憶を司る「大脳大皮質」に移動する。
3.レム睡眠時に、それらの情報を過去の情報や経験とつなげる。
つまり
<覚醒時>
短期記憶を海馬に入れる。
<ノンレム睡眠時>
短期記憶を海馬から大脳大皮質に移動して、長期記憶にする。
<レム睡眠時>
長期記憶を統合する。
という役割を果たしているということです。
レム睡眠時に行われていることは、記憶というよりも創造になります。
起きている間にはできないような、創造的な情報の繋がりを作ります。
(レム睡眠時の機能については、次の記事で説明します。)
ですから、「記憶」という面ではノンレム睡眠が大きく関わっていると言えます。

短期記憶を司る海馬は、容量が存在します。
容量が限界になっても情報を入れようとすると、新しい情報を記憶できないか、押し出されるように情報が失われてしまいます。
しかし情報を長期記憶に移動することによって、海馬の容量にスペースがあき、新たに短期記憶ができるようになります。
つまり
睡眠をとることで、さらに記憶ができるようになる
ということです。
逆に言えば、睡眠をとらなければ、いくら詰め込もうとしても情報はもう入らないというわけです。
さらに、短期記憶から長期記憶に移動する際に、もう一つ驚くべき機能を脳は果たしています。
それは
必要のない情報を捨てる
ということです。
人は、寝ていて無意識の間に、情報の取捨選択をしているのです。
すごいですよね。
つまり、ノンレム睡眠時には
・短期記憶の情報を取捨選択して整理し、必要なものを長期記憶に移動する。
・その結果、短期記憶の容量にスペースを作る。
ということが行われているのです。
長期記憶に移動されれば、記憶は定着して早々失われることはありませんから、安泰です。
ノンレム睡眠と記憶の実験

ノンレム睡眠と記憶の実験は、数多く行われています。
その中の一つを紹介します。
<実験内容>
多くの情報を覚えてもらい、それについて8時間後にテストをする。
2つのグループに分け、8時間の使い方を
・8時間起きている
・8時間睡眠をとる
とする。
<結果>
睡眠をとった方が20~40%成績が良かった。
睡眠により、記憶が定着しているということです。
ちなみに、睡眠をとった人の中でも、ノンレム睡眠の時間が長かった人ほどテストの結果が良かったそうです。
他にも、徹夜してテストにのぞむと8時間睡眠をとった場合に比べて、40%成績が悪かったなどの実験結果もあります。
徹夜して勉強をしても、海馬の容量がいっぱいになってしまえばそれ以上覚えられませんし、記憶が定着することもありません。
もう覚えられなくなるか、覚えたそばからどんどん忘れてしまうことになります。
徹夜する意味は、全くないということです。
さらに、短期記憶を長期記憶に移動して定着させるためには、その日に寝ないとだめだそうです。
次の日に寝ても、長期記憶に移動されず忘れてしまうのです。
まとめ

・覚醒時に得た情報は、海馬に短期記憶として保管される。
・ノンレム睡眠時に、短期記憶を整理し、長期記憶に移動する。
・レム睡眠時に、それを過去の経験や他の記憶などと統合する。
・ノンレム睡眠によって、記憶は強化・定着し、新たに記憶できるようになる。
寝ないと記憶はできないということですね。
勉強したら、とにかくしっかり寝ることが正解なのです。
どうしても時間がない時でも、徹夜するくらいなら1時間でも1時間半でも寝た方が、より多くの記憶を覚えられ定着させられるということですね。
徹夜は、デメリットしかありません。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。