健康・医療

膿を出しても治らない

膿は出しても治らない

今回は、膿についてです。

 

結論としては

膿を出したからと言って、感染が治癒するわけではない

です。

 

歯の病気の一つに、根の先に膿が溜まってしまう「根尖性歯周炎」というものがあります。

(正確には、膿が溜まる場合と溜まらない場合があります。)

患者さんの歯が根尖性歯周炎になっている場合に説明すると

膿を吸引とかして出したら、治るんですよね?

というようなことを聞かれることが多くあります。

 

確かに、膿が溜まっている場合には膿を出せば治るように思えると思いますが、実際はそんなことはありません。

膿を出すことと治癒することは、全く別の話なのです。

 

このことは、歯の根尖性歯周炎に限ったことではなく、身体全体について同じことが言えます。

身体のどこの部位においても、膿を出したからと言って治るわけではないのです。

 

それでは、膿とは何なのか、そしてなぜ膿を出しても治らないのかについて説明していきます。

 

膿とは

膿というと、「身体の中に溜まった身体にとって悪いもの」というイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。

しかし、決して膿自体は悪いものではありません。

 

膿というのは

細菌やウイルスなどと、白血球などの免疫細胞が戦った死骸の塊など

です。

つまり、感染してきた病原体に対して、防御反応として免疫システムが働いた結果としてできるものです。

ですから、膿自体に病原性や毒性があるわけではありません。

但し、膿が溜まっていると痛みが出る場合があります。

これは膿に毒性があるわけではなく、膿が溜まることで組織内の内圧が高まり、その圧力によって組織が圧迫されて痛みを感じるからです。

その場合は膿を出すことで痛みが軽減しますが、膿が溜まる原因の感染状態が治癒したわけではありません。

 

誰もがよく目にする膿の一つとして、「鼻水」があります。

そもそも鼻水は、ウイルスや細菌を捉えて、肺に入らないように防御しているものです。

風邪をひいた初期段階は鼻水は透明っぽいのですが、感染が強い場合には黄色から緑色っぽくなります。

この黄色から緑色の状態は、まさに膿です。

ウイルスや細菌と免疫細胞が戦って死んだ死骸の塊なのです。

 

膿を出しても治らない

では風邪をひいた時に、膿である鼻水をかんで出したら、風邪は治るでしょうか。

鼻水を出せば、一時的には楽になりますが、当然ながら風邪が治るわけではありませんよね。

そして、根本的に風邪が治っていなければ、鼻水はまた溜まってきます。

つまり、「膿を出しても、治っていない」ということです。

 

風邪の原因は、ウイルスの感染です。

ウイルスの感染が起こった結果、免疫システムが働き炎症が起こります。

炎症の中では、白血球などの免疫細胞とウイルスが戦いを繰り広げています。

その戦いの副産物として発生するのが、鼻水のような膿だというわけです。

原因・・・・ウイルスの感染

結果・・・・炎症(免疫システムの発動)

副産物・・・鼻水という膿の発生

 

要するに、副産物である膿を出したところで、原因を取り除いているわけではないわけです。

風邪を治すためには、原因を取り除かなくてはなりません。

風邪の原因は、膿ではなくウイルスの感染です。

つまり、感染したウイルスを免疫細胞が駆逐しなければ、いくら膿を出したところで風邪が治ることはないのです。

このことは風邪に限らず、全てのことについて言えることです。

 

ですから

膿を出しても治らない

ということなのです。

 

傷口は乾燥・消毒をするべきではない

膿に関連することとして、傷ができてしまった時の対応方法についても、説明しておきます。

 

転んだり切ってしまうなどして、傷ができてしまったときに

化膿しないように、消毒して乾燥する

ということをしている人は多いのではないでしょうか。

 

確かに一昔前までは、このような方法が一般的で正しいと考えられていました。

しかし、最近では消毒も乾燥もしない方が良いということがわかっていて、「湿潤療法」が主流になっています。

 

傷口ができると、組織を修復するために細胞が集められ、傷口からは滲出液(無色透明の液体)が出てきます。

この滲出液が気持ち悪いと感じ、拭いて乾燥させたりしてしまいがちですが、滲出液には非常に重要な役割があります。

それは

・集められた細胞の成長を促進する

・その結果、傷口の治りを早くする

というものです。

つまり、滲出液を拭いて乾燥させることは、むしろ治癒を妨げて化膿しやすくすることになってしまうわけです。

 

また消毒に関しては、多くの消毒液は滲出液に触れると、効果が無くなってしまうため無意味です。

さらに言えば、無意味なだけでなく消毒液は正常な組織や細胞にも毒性を持っているため、傷の修復を阻害してしまいます。

最近は何でも除菌や消毒することが流行っていますが、これらは正常な組織や必要な細菌なども壊したり殺したりしてしまうため、とにかくやればいい類のものではありません。

ひたすら1日に何度も手をアルコール消毒するのも、皮膚の上で身体を守ってくれている細菌まで全滅させているわけです。

 

このような理由から、傷口は乾燥も消毒もしない方が良いのです。

 

では、傷口が出来てしまった場合に具体的にどうすれば良いのかというと

1.傷口を水でよく洗って、泥などの異物を取り除く

2.絆創膏ではなく、創傷被覆材を使用する。

と言うように対応してください。

これが湿潤療法と呼ばれるものです。

(創傷被覆材とは、キズパッドのようなものです。)

 

まとめ

まとめ

・膿は、免疫細胞と異物が戦った後に出来る死骸などの集まり

・膿を出したところで、治るわけではない

・傷口を、乾燥・消毒させるのは誤り

膿を出せば治るという感覚は、現在の医療が対症療法中心であることも影響かもしれません。

しかし、健康を保ったり感染した時に治癒させるのに最も重要なのは、薬や医療の力ではなく免疫力や自己治癒力です。

 

免疫力や自己治癒力を高く保ち日頃から健康でいるためには、生活習慣が全てです。

自分の体を守るのは、自分自身しかいません。

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。