経済

【プロスペクト理論】人は「得する」より「損したくない」

【プロスペクト理論】ひとは「得する」より「損したくない」

今回は、行動経済学の基盤となる「プロスペクト理論」についてです。

 

結論としては

人は損得の判断をする際に、確率に基づく合理的判断ができない性質がある

です。

 

そもそも行動経済学とは、経済学に心理学を反映させた考え方です。

行動経済学 = 経済学 × 心理学

というようなイメージです。

 

従来の経済学は、「人々は常に合理的に判断して行動する」ということを前提にしています。

しかし実際には、全ての人が合理的に判断して行動しているわけではなく、非合理的な判断・行動をすることが多々あります。

そのために、従来の経済学では説明できない事柄が発生してしまいます。

 

そのような人間の感情に基づく非合理的な判断や行動を加味して考えられているのが、行動経済学です。

 

つまり、大まかに言えば

従来の伝統的な経済学

完全に合理的な判断をする人々の社会に対する経済学

 

行動経済学

非合理な判断をする人々がいることを考慮した経済学

ということになります。

行動経済学の方が、現実の社会には近いと言えますね。

 

ですから行動経済学では、人々の非合理的な行動が、無秩序ではなく何か法則性のようなものがないかを研究することになります。

そして、「プロスペクト理論」は

不確実性下における人間の意思決定をもモデル化した理論

です。

わかりにくいので、もう少しかみ砕いて言うと

人々が損得の判断する際に、どのような判断をするかの傾向を表した理論

ということです。

 

このプロスペクト理論は、行動経済学を構築する上で基礎になる重要な理論です。

それでは、プロスペクト理論について説明していきます。

 

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論は、以下の3つの心理作用を包括した理論です。

・損失回避性

・感応度逓減性

・参照点依存性

要は、プロスペクト理論の中にはこの3つがあるということです。

そしてこの3つを一つのグラフで表すと、以下のものになります。

プロスペクト理論グラフ

このグラフが上記の3つの心理作用を表したもので、プロスペクト理論の全てと言ってもいいものです。

とは言え、これだけではよくわかりませんね。

それぞれについて説明していきます。

 

損失回避性

損失回避性とは

人は、利益を得られる場面ではリスク回避を優先し、損失を受ける場面ではできる限り損失を回避しようとする傾向がある

というものです。

わかりやすく嚙み砕くと

人は「得する」よりも「損したくない」思いの方が強い

ということです。

 

例えば、じゃんけんで

・勝ったら10万円貰える

・負けたら10万円支払う

という条件だとしたら、このじゃんけんをしますか?

圧倒的に多数の人が、このじゃんけんは割に合わないからやらないという選択をします。

しかし当然ながら期待値は±0ですから、確率的には割に合わないということはありません。

 

では、もう一つ。

・勝ったら12万円貰える

・負けたら10万円支払う

このじゃんけんはどうでしょうか。

実は、このじゃんけんですら、やりたくない人の方が多いのです。

このじゃんけんの期待値は+1万円ですから、確率を合理的に考えればやるべきじゃんけんです。

にも拘らず多くの人は、12万円の利益を得る喜びよりも10万円の損失を受ける悲しみの方が大きく感じるのです。

これが「損失回避性」です。

 

先程のプロスペクト理論の全てと言えるグラフで見てみると、以下のようになります。

プロスペクト理論グラフ

10万円失う悲しさ > 10万円得る喜び

となっているのがわかりますね。

つまり

人は、得するよりも損したくない

ということです。

一般的には、「損する悲しみ」は「得する喜び」より2倍ほど強く感じると言われています。

 

じゃんけんで言えば

・勝ったら20万円貰える

・負けたら10万円支払う

というくらいでないと、割に合うと感じないということですね。

 

確率的には全く合理的ではないのですが、人はこのような判断をする傾向にあるのです。

 

感応度逓減性

「かんのうどていげんせい」と読みます。

感応度逓減性とは

利益や損失の絶対値が大きくなるほど、喜びや悲しみの大きさが減少する

というものです。

これはイメージつきやすいのではないでしょうか。

 

例えば、パチンコで1万円勝ったら嬉しいですよね。

さらに勝って、1万円の勝ちが2万円になったらより嬉しいのですが

0→1万円の時の嬉しさ > 1万円→2万円の時の嬉しさ

となるということです。

 

先程のプロスペクト理論の全てと言えるグラフで見てみると、以下のようになります。

プロスペクト理論グラフ

最初の1万円の利益よりも、1万円から2万円のときの方が満足度が小さいのがわかりますね。

ですから感応度逓減性から考えると、利益を得る場合において人は、リスク回避的になる傾向があります。

1万円の利益が出ているから、2万円を目指すのではなくて1万円でやめておこう、ということです。

収入と幸福度の関係も、感応度逓減性で説明することができます。

幸福度は年収が800万円に達するまでは比例的に上がっていくとされていますが、それ以上は年収が上がってもあまり幸福度は変わらないとされています。

 

このことは、物質的豊かさが満たされるという面もありますが、感応度逓減性という心理作用も関わっていると考えられます。

但しパチンコの例で考えると、勝ちが大きくなっても最初ほど満足感が得られないため、さらに大きな勝ちを求めてしまうという面もあります。

ギャンブルなどに熱くなってしまう人は、この傾向があると考えられますね。

 

利益ではなく、損失の場合も同様のことが言えます。

パチンコで最初に1万円負ける悲しみや辛さに比べると、さらに1万円負けて2万円の負けになったときの方が悲しみや辛さは小さくなります。

負けが9万円から10万円になったときなどは、最初の1万円を失った時に比べるとほとんど感じなくなっていますよね。

だんだんと麻痺してくるイメージですね。

 

クレジットカードのキャッシュ枠やリボ払いなどは、この典型的な例です。

だんだんと感覚が麻痺してきて、どんどん借金を膨らませてしまうのです。

人には感応度逓減性があるからこそ、借金を雪だるま式に増やして自己破産などをしてしまうと言えるわけです。

 

参照点依存性

参照点依存性とは

人は自分が設定した参照点(基準)からの変化で、損得を判断している

というものです。

つまり

人は判断する際に、絶対評価ではなく相対評価をしている

ということです。

 

例えば、次の2つのケースを考えてみてください。

ケース1

1万円の服を買おうとしたとき、15分かけて隣の駅の店に行けば、同じ服が5000円で売っているのを知った。

ケース2

200万円の車を買おうとしたとき、15分かけて隣の駅の店に行けば、同じ車が199万5000円で売っているのを知った。

いかがでしょうか。

ケース1では、多くの人が隣の駅の店まで行くと答えます。

それに対してケース2では、多くの人が隣の駅の店までいかないと答えます。

 

どちらのケースでも、15分かければ5000円安くなるという条件は同じです。

つまり、絶対評価であればケース1とケース2は同じということです。

 

しかし、ケース1では隣の駅の店まで行くのに、ケース2では行かない人が多くいるわけです。

非合理的な判断だということがわかりますよね。

これは1万円と200万円という金額の大きさによって、参照点(基準)が変化しているため生じる非合理です。

合理的な選択であれば、ケース1・2共に行く、もしくは行かない、というように同じ選択になるはずなのです。

 

このように、人の判断というのは絶対的な基準に基づいたものではなく、相対的なものだということです。

 

人は非合理的な行動をする

プロスペクト理論が示すように、人は損得の判断をする際に、非合理な選択をしてしまう傾向があります。

しかしこの非合理的な判断や行動は、決して能力が低いなどが理由ではありません。

言ってみれば、本能レベルでの判断が非合理的になってしまうのです。

 

人は狩猟採集の時代に、常に命の危険と隣り合わせでした。

木の実などを見つけて取りに行くなどの利益を求める行動は、猛獣に襲われて命を落とすなどの大きな損失を受けてしまう可能性をはらんでいたのです。

ですから、命を守るために損失を避けるということが第一優先になるように、DNAレベルでインプットされているわけです。

 

つまりは

・利益よりも損失回避を優先する

・多くを求めすぎない

・状況に合わせて判断する(相対評価で判断する)

というのは、命を守るという最も重要なことを成し遂げるための手段と考えらえます。

そのように考えると、プロスペクト理論の示す人々の判断や行動は非合理的ではなく、合理的だと言えるのです。

 

しかし、人間の本能は大きく変化していなくても、環境は大きく変化しました。

現代の人間は基本的に、命の危険と隣り合わせの環境にいるわけではありません。

ですから、昔であれば合理的だった本能は、現代社会においては非合理的になってしまうのです。

 

このような背景を考慮すれば、非合理的な判断や行動は仕方のないことだと言えるわけです。

 

プロスペクト理論を理解するメリット

プロスペクト理論の示す人々の非合理性が本能レベルのものだとしたら、努力でそれを消すことは難しいということになります。

しかし、プロスペクト理論を理解しておくことで、大きなメリットがあります。

それは

自分が非合理的な判断をしてしまうことを自覚できる

ということです。

 

ほとんどの人は自分は非合理的な判断をしていないつもりで、非合理的な判断や行動をしてしまいます。

自覚がないわけです。

それでは防ぎようがありません。

しかし、自分が非合理であるという前提に立っていれば、自覚して防ぐことも可能になります。

 

というのも、ビジネスの世界ではこのプロスペクト理論は、当たり前のように使われています。

要は、人の本能に基づいた心理を揺さぶることで、お金を吸い上げているわけですね。

騙していると言うと言いすぎかもしれませんが、一種の脅しのようなものです。

・先着50名様まで!!無くなり次第終了!!

・本日限りの30%オフ!!

などは典型的ですよね。

損失の不安を煽っているわけです。

 

保険などもそうですね。

契約しないと損失のように見せかけ、一度契約したら解約すると損失を受けるような仕組みにしているのです。

 

悪く言えば、自分が非合理的な判断をしていると自覚しなければ騙され続けるということです。

しかしプロスペクト理論を理解すれば相手の手口も見えてきますし、自分の非合理性を認識しておけば自分の判断を見つめなおすこともできます。

 

つまるところ、プロスペクト理論を理解しておけば、自分の身を守ることに役立つということです。

 

まとめ

・人は損得の判断の際、合理的に判断できない傾向がある

・プロスペクト理論は、人がどのように判断するのかをモデル化したもの

・プロスペクト理論は、損失回避性・感応度逓減性・参照点依存性からなる

・プロスペクト理論を理解することで、自分を守ることに繋がる

プロスペクト理論を利用して、人々の心理に働きかけることでビジネスを行うことは、違法でもなければ責められるべきことでもないでしょう。

 

ただ、個人的には何だか納得できないんですよね。

本質的ではないというか、弱みに付け込んでいるというか・・・

 

ビジネスにおいて利益をあげることが重要なのは間違いありませんが、それだけではないはずです。

社会に対する貢献活動でもあるはずです。

現代には必要のない本能をあえて呼び起こすことで、過剰にモノやサービスを売りつけることは、何よりもお金を優先している証拠だと思うのです。

お金は大切ですが、社会や人々のためにお金があるのであって、お金のために社会や人々が存在するわけではないのです。

 

とは言え、文句を言っても世の中の仕組みが変わるわけではありません。

個人として出来ることは、相手の手口と自分自身の非合理性を理解して、引っかからないようにすることです。

知識は武器にも防具にもなります。

思考停止にならず、しっかり学んで自分の頭で考えましょう。

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。