今回は、よく言われる「年金制度が破綻する」ということについてです。
結論としては
・年金制度が破綻することはあり得ない
・破綻はしないが、将来的に年金受給額が減少する可能性は高い
となります。
「年金制度の破綻」ということが、「制度自体が立ち行かなくなって消滅する」という意味であれば、それはあり得ません。
年金制度の構造上、あえてやめることをしなければ、制度を永続的に継続することは可能です。
しかしその反面
・年金受給額の減少
・年金受給年齢の引き上げ
・保険料の増額
は今後も、ほぼ確実に行われていくと思われます。
(厚生年金保険料率は、2017年に法的上限とされる18.3%になって固定されていますが、今後保険料率がさらに上がる可能性も十分あります。)
要するに
年金制度が無くなることはないが、改悪はされていく
ということです。
改悪の原因は、もちろん「少子高齢化」「労働世代の減少」「長寿化」といった社会構造の変化です。
それでは、年金制度はどのようなもので、なぜ破綻することはあり得ないのかなどについて説明していきます。
また本質的に言えば、改悪することすら必要ないということも説明します。
年金制度の構造

まずは年金制度がどのような構造をしているのか、大枠を理解しておきましょう。
年金は、大きく分けると
・公的年金
・私的年金
の2つがあります。
公的年金は、国が運営する年金で強制加入です。
「年金が破綻する!!」と言われる年金は、この公的年金のことです。
一般的に「年金」というときは、ほとんどが公的年金を指します。
それに対して私的年金は、個人が任意で加入する保険です。
強制ではなく任意なので、加入するかどうかは個人の自由です。
大まかには、以下のようになります。

公的年金
公的年金には、「国民年金」と「厚生年金」があります。
公的年金は、原則65歳以上の人が受け取れる老齢年金以外に、障害年金や遺族年金もあります。
歳をとったときだけでなく、もしもの時の保障もあるのが公的年金です。
国民年金
国民年金は、20歳以上60歳未満の人全員が、収入や職業に拘らず加入して保険料を納めることを義務付けられているものです。
「年金の1階部分」と言われ、年金の最も基礎になるのが、この国民年金です。
厚生年金
会社員や公務員などで70歳未満の人が強制的に加入して保険料を納めるのが、厚生年金です。
国民年金の代わりに厚生年金に加入するというのではなく、国民年金にプラスする形で厚生年金に加入します。
国民年金への上乗せですから、「年金の2階部分」と言われます。
老齢年金
原則65歳以上の人が受け取れる年金で、一般的に言われる年金は老齢年金のことです。
国民年金では「老齢基礎年金」、厚生年金では「老齢厚生年金」と言います。
障害年金
障害年金は、公的年金加入中に病気やケガによって、障害状態になってしまったときに受け取れる年金です。
国民年金では「障害基礎年金」、厚生年金では「障害厚生年金」と言います。
遺族年金
公的年金に加入していた人が亡くなった場合、その亡くなってしまった人が生活を支えていた遺族が受け取れる年金です。
国民年金では「遺族基礎年金」、厚生年金では「遺族厚生年金」と言います。
私的年金
企業や個人が、任意で加入する年金です。
公的年金より手厚く年金を受給したい場合に、自分で積み立てていくイメージです。
いわゆる「年金の3階部分」にあたるものです。
国民年金基金・付加年金
2階部分がない国民年金の加入者が加入できる制度です。
厚生年金の加入者は、これらには加入できません。
国民年金基金と付加年金はの両方に入ることはできず、どちらか一方を選ぶことになります。
企業年金
厚生年金に加入している企業が、任意で加入する年金制度です。
企業は企業年金に加入するか任意ですが、企業年金に加入している企業の従業員は、原則加入することになります。
個人型確定拠出年金(iDeCo)
大半の人が加入することができ、自分で運用するものです。
税制面で優遇されています。
年金は3階建て
このように、公的年金と私的年金を合わせると年金は3階建てになります。

年金制度の方式

年金制度の大枠を説明したところで、なぜ公的年金が破綻しないのかについて説明します。
破綻しない理由は、公的年金制度の仕組みにあります。
公的年金制度の仕組みには、2つの方式があります。
・積み立て方式
・賦課方式
の2つです。
積み立て方式は、将来の自分のために自分で積み立てていくというものです。
つまり、支払っている保険料は自分に返ってくるということです。
それに対して賦課方式は、その時の労働世代が支払った保険料が、その時の年金受給者に支払われる仕組みです。
つまり、労働世代が支払った保険料は、その時の高齢者の年金になっているということです。
子どもが親を援助するようなイメージですね。
要するに高齢者の年金の財源は、その時の労働世代の納めた保険料ということです。
どちらの方法にもメリット・デメリットがありますが、現在の日本は賦課方式を採用しています。
日本に限らず、ほとんどの先進国が賦課方式です。

賦課方式だと世代間の不公平があるのは間違いありませんが、長寿化が進んでいる現代では積み立て方式だとリスクが高すぎるという面があります。
積み立て方式の場合、積み立てた金額に対して長生きをしすぎると、年金が無くなってしまう可能性もあるのです。
賦課方式であれば、誰もが年金をある程度は貰うことができるので、そういう意味では公平と言えるのかもしれませんね。
つまり、賦課方式を採用している以上、財源が全くなくなるということがあり得ないということです。
財源が無くなるというのは、労働世代がゼロになるということですからね。
そのような意味で、年金制度が完全に破綻することはあり得ません。
しかし、労働世代は減って高齢者は増えていくという現実があります。
労働世代がいなくなって年金が破綻することはありませんが、少子高齢化は確実に年金に影響を与えます。
高齢者一人を支える労働世代の人数の移り変わりです。

どんどん減っていますよね。
これは年金において、財源の担い手が減るということと同じです。
財源の担い手が減れば
・受給金額が減る
・受給期間が短くなる(受給開始年齢の引き上げ)
・保険料の引き上げ
などが進められていくことになります。
実際に、これらは現在も着実に進行中です。
年金の財源

年金の財源について、もう少し詳しく見てみましょう。
実は、公的年金である「国民年金」「厚生年金」共に保険料だけでは財源が足りないため、税金が投入されています。
国民年金と厚生年金では、税金の割合が異なります。

相当の税金が投入されているのがわかりますね。
現段階で、すでに保険料だけでは財源は足りていないわけです。
税金で足りない分を補填しているのです。
逆に言えば、税金で補填することが問題ないのであれば、「年金破綻問題」などは存在しないに等しいわけです。
保険料が減ったとしても、税金で補填すればいいわけですから、財源が足りなくなることなどないですからね。
本質的には問題は存在しない

では、税金で年金の財源を補填することは問題ないのか、という話になってきます。
結論から言えば、問題ありません。
「日本は借金大国だから、これ以上借金を増やせない」
「そんなことしたら、日本は財政破綻する」
などと言う人がいますが、完全に間違っています。
日本は借金大国でもありませんし、財政破綻することもありません。

政府が国債を発行して借金をして、年金をはじめとした社会保障の財源にすれば終わりです。

そしてインフレ率が高くなりすぎる場合には、増税などをして引き締めればいいだけです。
これらのことに関しては、当ブログの「経済基礎知識」で詳しく説明しています。
そちらを呼んで経済を理解していただくと、全てが繋がってくるはずです。
要するに、本質的に言えば
年金の財源問題など、存在しないに等しい
ということなのです。
しかし、実際には政府は
・年金受給金額の引き下げ
・年金受給開始年齢の引き上げ
・保険料の引き上げ
といったことを行ってくるでしょうから、個人としては蓄財をしておいて備えるしかないという現実もあります。
まとめ

・年金制度は、賦課方式を採用しているので破綻はあり得ない
・但し、今後改悪は続くと考えられる
・本質的には、年金財源問題など存在しない
公的年金は、「歳をとったら受給する」というだけのものではなく、障害年金や遺族年金という「もしもの時」に対しての備えでもあります。
公的年金はオワコンみたいに言う人も多いですが、民間保険などに比べて圧倒的に優秀なのは言うまでもありません。
公的年金をはじめとした社会保険が、私たちの「もしもの時」の備えのメインであることは、疑いようがありません。
そして、経済や貨幣のことをしっかり理解すれば、今後も問題なく運用できるのです。
国が正しい方向に向かうとは限らないため、個人として備えるのも大切ですが、正しい知識を持つことはもっと重要です。
無知は未来を壊しかねません。
正しい経済や貨幣への知識を得て、年金制度を正しい方向に向かわせる必要があります。
そして、それこそが未来の世代を守るということに繋がるのです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。