今回は、思春期の子どもたちの「夜更かしや朝寝坊」についてです。
結論としては
・思春期の夜更かしや朝寝坊は、成長に伴う必要なことで適切
・社会の仕組みが、思春期の子どもから必要な睡眠を奪っている
・思春期の時に十分な睡眠がとれないと、脳の成熟に影響が出る
です。
ほとんどの親は、思春期の子どもが
・夜遅くまで起きていて、夜更かししている。
・朝なかなか起きずに、朝寝坊する。
というようなことに対して、イライラしたり怒ったりした経験があるでしょう。
逆に自分が思春期の頃には、親に
「さっさと寝なさい!!」
「早く起きなさい!!」
と言われた記憶がある人は、多いですよね。
このような思春期の夜更かしや朝寝坊は、「だらしない生活を送っているから」と考えられがちですが、そうとも言い切れません。
実は、思春期の夜更かしや朝寝坊は
年齢に適応した適切な睡眠のとり方
ということが分かっています。
思春期の夜更かしや朝寝坊は当たり前で、その年代にとっては必要で適切なものなのです。
むしろ思春期の子どもたちがだらしない生活をしているのではなく、思春期の正常な睡眠を学校などのタイムスケジュールや親が奪ってしまっているのです。
つまり、不適切な社会の仕組みや親の無知によって、思春期の子どもは被害を受けているわけです。
何の科学的根拠もなく、漫然と常識を妄信して
早寝早起きの生活こそ正義
というように、思春期の子どもたちに早寝早起きを押し付けている親は、猛省した方が良いです。
毒親と言われても仕方ないレベルです。
思春期の間は脳は発達途中で、脳の発達のためには大人よりも長い十分な睡眠が必要な状況です。
ですから、思春期の子どもの睡眠を奪うということは
子どもの脳の発達を阻害している
ということに他ならないのです。
無知にも拘らず、自分が正しいと思い込んでいる親のせいで、子どもの脳の発達が阻害されるわけです。
害でしかありません。
それでは、思春期の夜更かしや朝寝坊が当たり前であることや、睡眠と脳の発達について説明していきます。
年代による概日リズムの変化

人間の脳には、体内時計(生物時計)が備わっています。
体内時計は約24時間周期のリズムを刻んでいて、そのリズムのことを「概日リズム」と言います。

この概日リズムは個人差がありますが、一人の人間で見た場合にも年齢によって変化します。
つまり、適切な睡眠のタイミングは、年齢によって変化するということです。
乳幼児期の概日リズムは大人よりも早いのですが、思春期になると一気に大人よりも遅くなります。
これは、文化や地域などに関係なく、思春期の子供に共通しているものです。
言わば、人間に備わった生理的現象ということです。
もう少し具体的に説明します。
9歳ころの概日リズムだと、個人差はありますが平均すると21時頃になると眠たくなってきます。
それが10代になり、中学生や高校生くらいになると、0時やそれ以降にならないと眠たくならなくなります。
概日リズムが後ろにずれ込むため、当然ながら起きる時間も遅くなります。
中学生や高校生などの思春期の時期は、概日リズムが大人よりも2~3時間程度遅くなるのが通常です。
ですから思春期の子どもたちは
深夜1~2時頃に寝て、朝9~10時頃に起きる
というくらいが、適切な睡眠のタイミングになります。
つまり
・思春期の子供23時に寝るのは、大人が20時や21時に寝るようなもの
・思春期の子供が7時に起きるのは、大人が4時や5時に起きるようなもの
というレベルのことを無知な親は、あたかも正しいことかのように思春期の子どもたちに押し付けているのです。
そりゃあ、夜は眠れず、朝は起きられませんよね。
当然ながら、慢性的な睡眠不足に落ちるわけです。
しかし、このことは親の問題だけではありません。
仮に親が理解していたとしても、学校の始業時間という根本的な問題があります。
始業時間が、子どもたちの概日リズムに合っていない
ということです。
学校が始まるのが早すぎるわけです。
この問題は、以前から指摘され続けていますが、日本において学校の始業時間などが改善される兆しはありません。
ちなみに、アメリカのある地域で学校の始業時間を変える試みが行われたことがあります。
8時始業を9時始業、10時始業と始業時間を遅らせたら、どうなるかを調べた実験です。
結果は、始業時間を遅らせるほど、カリキュラムなどは一切変えていないにも拘らず、学生の学力は向上していったそうです。
中学校や高校の始業時間を2~3時間程度遅くした方が、子どもたちのためになることは明らかことなのです。
睡眠と脳の成熟

人間の脳の発達は、母親のお腹の中にいる胎児の時期から始まり、20代になるまで続きます。
つまり、20代になるまでは脳は発達途中で、未成熟だということです。
そして睡眠は、脳の発達に重要な役割を果たしています。
ですから、脳の発達中に十分な睡眠が確保できないことは、脳の発達を阻害することに繋がります。
胎児・新生児の脳の発達
胎児・新生児の間は、レム睡眠の割合が人生の中で最も大きい時期です。
レム睡眠は、神経回路を作る役割を果たします。
ですから、胎児・新生児の間はレム睡眠によって、神経回路が増えていく時期です。
幼児期・小児期・思春期の脳の発達
幼児期・小児期・思春期になると、レム睡眠の割合が減り、ノンレム睡眠の割合が増えていきます。
ノンレム睡眠は、胎児・新生児の時期に増やした神経回路を、整理して効率化していきます。
脳を機能的にして、成熟させていく段階です。
脳の成熟は、脳の後ろの方から前の方に向かって進んでいきます。
先に脳の後方部が成熟し、後から前方部が成熟していく流れです。

概日リズムが大人より遅くなる思春期は、後方部は成熟していますが、前方にある前頭葉はまだ未成熟な状態です。
つまり思春期は、脳の後方は成熟していて大人と同等ですが、前方は未成熟というアンバランスな状態なのです。
脳の前方と後方は
脳の前頭葉 : 合理的思考を司る
脳の後方部 : 視覚・空間認識を司る
という役割があります。
思春期の子どもは、合理的思考を司る脳の前方の前頭葉が未発達なため、合理的判断や行動がまだ難しいのです。
思春期の子どもが非合理的な行動などをするのは、このためです。
ですから大人は、思春期の子どもが合理性に欠ける行動などをしても、それは当然のことだと理解して見守ることを覚えなくてはなりません。
20代になって前頭葉が成熟すれば、自然と合理的思考ができるようになっていくのです。
しかし、思春期はノンレム睡眠中に脳が成熟されていきますから、睡眠が足りなければ脳が十分に成熟できません。
脳の発達が不十分な場合は、脳の発達障害や精神疾患のリスクが高くなってしまうこともわかっています。
身体だけでなく脳に関しても、大人になるまでの間に、十分な睡眠をとるということは非常に重要なことなのです。
大人の社会が子どもの脳の発達を阻害している

このように、思春期の睡眠というのは身体の成長だけでなく、脳の発達にも欠かせないものです。
思春期の子どもは
大人よりも遅いタイムスケジュールで、大人よりも長い睡眠をとる必要がある
ということは、科学的にわかっていることなのです。
にも拘らず、学校の始業時間などの非科学的な社会システムや無知な親は、それらの科学的事実を全く無視しています。
科学的根拠をから目を背け、自分たちの独善的な常識を子どもたちに押し付けているのです。
最悪です。
学校や親は、自分たちが加害者であることを認識する所から始めなくてはなりません。
まとめ

・思春期は概日リズムが遅くなる
・そのため、思春期の夜更かしや朝寝坊は当たり前
・学校が始まるのが早すぎるため、十分な睡眠が確保できていない
・十分な睡眠が確保できないと、脳の成熟に影響が出る
思春期の子どもたちが、夜更かしや朝寝坊をするのは、決してだらしないからではありません。
成長の中での生理的な現象なのです。
間違っているのは、子どもたちではなく社会の仕組みや大人の持っている常識の方です。
勉強はいつでもできますが、この時期の脳の成熟は後から取り返すことはできません。
学校のような利権やしがらみまみれのところが、科学的に正しいことを取り入れるまでには相当の時間がかかるでしょう。
しかし、親は子どもに対してすぐにでも正しい対応をすることが可能です。
ぜひ思春期の子どもたちに、十分な睡眠を確保させてあげてください。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。