今回は、「虫歯は自然治癒することがあるのか」ということについてです。
結論としては
・虫歯は自然治癒しない
・歯には、基本的に再生力や免疫力は無い
となります。
しばしば患者さんから
虫歯って自然治癒しないんですか?
と聞かれることがあります。
もちろん、他の組織のケガや病気などのように虫歯も自然治癒してくれれば良いのですが、残念ながら虫歯は自然治癒しません。
修復力や免疫力などの自然治癒力は、身体の健康にとって最も重要なものです。
自然治癒力を高く保つことによって、病気やケガを予防できますし、なってしまっても治りやすくなります。
しかし、歯にはその自然治癒力が基本的に備わっていないのです。
そのため、虫歯は自然治癒しません。
それでは、虫歯が自然治癒しない理由などについて、説明していきます。
自然治癒力はどうやって発現するのか

人間の身体は、自分自身を守り維持するための様々な機能を持っています。
風邪などの感染症になっても、多くの場合は治ります。
これは、病原性の微生物に対抗する「免疫力」のおかげです。
免疫細胞であるリンパ球・顆粒球・単球などの白血球が、ウイルスや細菌などの病原体を排除してくれます。
また、ケガなどをしても、その傷はそのうち治ります。
これは、破壊された組織を修復する「再生力」のおかげです。
幹細胞が分化することで、組織を修復してくれます。
幹細胞というのは、どんな細胞にもなることが出来る細胞のことです。
細胞の基になる細胞ですね。
皮膚の細胞、血管の細胞も、筋肉の細胞も、全ての細胞は幹細胞から分化したものです。
ちなみに分化とは、幹細胞がそれぞれの皮膚や血管や筋肉などの各々の細胞に変化することを言います。
そして、これらの病原性の微生物を攻撃してくれる免疫細胞や、破壊された組織を修復してくれる幹細胞から分化した細胞は、血流やリンパ流に乗って運ばれます。
つまり
免疫細胞や修復するための細胞は、血管やリンパ管を通って運ばれる
ということになります。
血流やリンパ流に乗った免疫細胞や再生する細胞が、ターゲットになる部位に行くことで、免疫力や再生力の自然治癒力が発現するわけです。
歯と血管・リンパ管

免疫細胞などが、血管やリンパ管を通って運ばれてくることを説明したので、次に歯の構造について説明します。
歯の構造は以下の通りになります。
(歯の断面図です。)

今回の話で重要なのは、赤枠で囲んである「エナメル質」「象牙質」「歯髄」です。
特に歯髄が重要です。
歯髄というのは、いわゆる「歯の神経」のことです。
この神経が、痛みなどを感覚します。
しかし、実は歯髄は神経だけがあるわけではありません。
歯髄の中には、神経以外にも「血管」と「リンパ管」が通っています。
神経と血管とリンパ管が、絡み合って歯髄の中に充満しています。
つまり、歯の中央部である歯髄には、血管やリンパ管が通っているということです。
しかし、歯髄以外の部分には血管やリンパ管は通っていません。
エナメル質や象牙質には、血管やリンパ管は通っていないのです。
虫歯には自然治癒力が働かない

ここまで説明してきたことをまとめると
・免疫細胞や再生させる細胞は、血管やリンパ管を通ってくる。
・歯は中央部しか、血管やリンパ管は通っていない。
ということになります。
では、虫歯はどのように進行するかと言えば、虫歯は歯の外側から内側に向かって進行します。
まずはエナメル質に虫歯が出来ます。

それが進行していくと、象牙質に侵入していきます。

このように虫歯は進行していくのですが、歯の中に血管やリンパ管が通っているのは歯髄のみです。
エナメル質や象牙質に血管やリンパ管は通っていません。
ですから虫歯になったとしても、エナメル質や象牙質には免疫細胞も再生するための細胞も運ばれてきて供給されることがないのです。
つまり
虫歯には免疫も効かず、再生して自然治癒することもない
ということになります。
ただし、まだ虫歯とは言えないレベルの虫歯の手前の状態であれば、「再石灰化」と言って表面のエナメル質が修復されることがあります。
これは、唾液に含まれるカルシウムやリンによって行われるものです。
あくまでも虫歯の手前の状態において効果があるものなので、「虫歯」と診断されるようなレベルでは、再石灰化によって歯が修復されることはありません。
他には、歯髄と接している象牙質においてのみ、象牙質の増殖が起こります。
これに関しては、血管やリンパ管が通っている場所だからですね。
ですから歯には完全に再生力が無いというわけではありませんが、非常に限定的であり、基本的には自然治癒しないと言っていいレベルなのです。
虫歯にならないようにする

このように、基本的に虫歯になったら自然治癒することはありません。
歯医者で治療しても、虫歯を削って代替物である詰め物をすることになります。
虫歯になって削った歯は、2度と戻ってくることはありません。
そのような意味でも、一度虫歯になった歯は治るとは言えません。
ですから、当たり前ですが、虫歯にならないようにすることが重要です。
虫歯にならないようにするためには
しっかりと歯磨きをする
ということが、全てだと言っても過言ではありません。

歯医者に通ったとしても、毎日の歯磨きが出来ていなければ、口腔内の健康を保つことなどできません。

まとめ

・免疫細胞や再生するための細胞は、血管やリンパ管を通ってくる。
・歯は中央部以外は、血管やリンパ管は通っていない。
・虫歯は免疫力も再生力も効かず、自然治癒することはない。
虫歯に限らず全ての病気に対して、「予防」が「治療」よりもはるかに大切です。
そして予防するためには、日々の生活習慣が全てです。
歯磨きを含めた生活習慣を見直してみてくださいね。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。