今回は、「医学は確率の学問」ということについてです。
結論としては
・医療は統計や経験を基にした確率に基づいている
・医療には絶対法則は存在しない
・人の身体は、未だわからないことだらけ
です。
「その治療をしたら絶対治りますか?」
「これからどうなりますか?」
「どうするのがベストですか?」
というようなことを患者さんからよく聞かれます。
恐らく分野に関わらず、医療従事者は日常的にこのような質問を患者さんから受けていると思います。
このような質問をする患者さんの気持ちはわかりますし、聞きたくなるのは当然だと思います。
しかし、これらの質問に対して正直に答えるのであれば、ほとんどの場合においての答えは「わかりません」となります。
言えたとしても、「多分、~~になります。」という程度です。
そんなことじゃ困る、と思う人もいるかもしれませんが、それが事実です。
はっきりと明言できることなど、医療の分野においては、ほぼありません。
それでは、なぜはっきりと明言できないのか、そして医療における考え方とはどんなものなのかについて、説明していきます。
医療に絶対法則は無い

世の中には、万有引力の法則のような絶対的とも言える法則が存在します。
絶対的法則とは、「ある条件付けをすると、再現性100%でそれに対応する決まった結果が生じる」というものです。
かみ砕いて言うと、「ある何かをしたら、必ず決まった結果が起こる」というものです。
万有引力の法則で言えば、2つの物体が存在したら(条件)、必ず2つの物体間にはお互いに引力が働く(結果)ということになります。
万有引力の法則とは
全ての物体には、お互いに引きあう力(引力)が働く。
この力を万有引力という。
質量Mの物体と質量mの物体の間に生じる引力をFとすると
F=G×Mm / r²
という式が常に成り立つ。
(rは物体間の距離、Gは万有引力定数)
重力も地球と人間や物体との間の万有引力ですね。
このような普遍的・絶対的な法則が、物理学などには存在します。
しかし医学・医療に関しては、このような普遍的・絶対的な法則は一つも存在しません。
あるとすれば、人間は生まれたら必ずいつかは死ぬことくらいでしょう。
そのことを医学や医療の分野とすることが適切なのかは微妙ですが。
なぜ医療の分野に絶対的な法則がないのかと言えば、大きな要因として二つあると思います。
一つ目は、個人差があることです。
ある同じ医療行為を行ったとしても、起こる結果は人によって大きく異なります。
同じ人に行ったとしても、その時の年齢や体調など多くの要因によって左右されます。
「Aという治療行為を行ったら、必ずBという結果が生じる」というわけではないのです。
Bという結果の場合もあれば、Cという結果やDという結果などになることも十分にあり得るのです。
もしかしたら、そのような個人差などが生じる理由になる絶対法則があるのかもしれませんが、少なくとも現在の医学ではそれは分かっていません。
そして二つ目の要因が、まさにそれです。
現在の医学では、人間の身体は分からないことだらけなのです。
人間の身体はわからないことだらけ

人間の身体について、現在の医学が解明できていることは、ほんのわずかだと思います。
わからないことが沢山あることはわかりますが、どの程度わかっていないのかは、当然わからないことなので不明です。
ですが、わからないことだらけであることは、間違いないと思います。
一人の人間の細胞の数は、37兆個という説もあれば、60兆個という説もあります。
相当開きがありますよね。
もちろん、どちらも合っていない可能性もあります。
また、一昔前は腸内細菌の数は1億個程度と言われていました時期もあったようですが、最近は1000兆個の腸内細菌がいると言われています。
数の次元がまるで違いますよね。
このように、医学における常識や通説は、時間の流れと共に常に書き換えられています。
現在常識として扱われていて医学部などで学生に教えているようなことでも、10年後20年後30年後などには、完全に否定されて新しい常識になっている可能性は十分あります。
そもそも、医学において「事実」や「常識」のように扱われているものの大部分は、「仮説」でしかありません。
数ある仮説の中で最も有力と考えられているものが、学生や患者に「事実」として教えられているのです。
そのことはしっかりと認識しておく必要があります。
医学・医療の分野において、確実と言えるようなことは、ほとんどありません。
そのくらい、人間の身体は分からないことだらけなのです。
統計を基に確率を考える

とは言え、医療の臨床や教育機関などでは
「〇〇したら、△△になる」
「□□は、◇◇に影響を与える」
などと、事実のように説明したりしているのをよく聞きますね。
なぜこのようなことが言えるのかと言えば、多くの場合、その因果や機序がわかっているからではありません。
統計的な結論に基づいているのです。
例として、糖尿病と歯周病を考えてみます。
糖尿病と歯周病は、お互いに影響し合うことがわかっています。
糖尿病の人は歯周病になりやすく、歯周病の人は糖尿病になりやすいということです。
どのようにしてそれがわかるかというと、スタートは
「歯周病の人って、糖尿病でもあることが多いな」
「糖尿病の人って、歯周病でもあることが多いな」
というところからです。
その後、統計データを集めます。
A:歯周病患者で、糖尿病の人
B:歯周病患者で、糖尿病でない人
C:糖尿病患者で、歯周病の人
D:糖尿病患者で、歯周病でない人
AとB、CとDの間にそれぞれ統計的に有意差があれば、糖尿病と歯周病の間に関係があると考えらえるわけです。
両者の間に、どのような機序が働いて関係しているのかは、この後調べていくことになります。
そして、様々なことにおいて、その機序を完全に解明できているものはほとんどないと思います。
つまり、多くのものは正確に言えば「統計的に有意差があるので、関係している確率が極めて高い」ということになります。
このことは、治療方法などについても同じことが言えるものが多々あります。
要するに、医療の基礎はデータ分析による統計にあり、その統計を基にして確率を上げるように考えるのが医学だということです。
まとめ

・医療には絶対的な法則は存在しない
・医療の礎は、データを基にした統計
・医療における常識や通説は、あくまでも最有力な仮説
・人間の身体はわからないことだらけ
このようなことを考えると、患者の
「大丈夫ですか?」
という質問に対して
「わかりませんが、確率的には大乗な可能性が高いです。」
という答えくらいしかできないことがわかると思います。
医療に絶対はありませんから、「大丈夫です。」などのように言い切ってしまうのは、ある意味ウソとも言えます。
しかし患者が安心して治療を受ける場合と、不安なまま治療を受ける場合とでは、予後に差が出ることもわかっています。
いわゆるプラセボ効果やその逆のノセボ効果です。
そのことを考えた場合、患者を盲信させておく方が良いとも言えます。
本当のことを言うのも、リスクになってしまう可能性があるということです。
本当のことを言って不安にさせてしまうか、嘘をついて盲信させるか、なかなか難しいところですね。
どちらが正解とは言えないものですね。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。