今回は、ダニング=クルーガー効果についてです。
要点としては
・ダニング=クルーガー効果の科学的根拠は乏しい
・しかし、自己評価について参考にできる部分は大いにある
です。
ダニング=クルーガー効果は
・無能な人は、自己評価が高い
・初心者は、わかった気になっている
・無知な人は、自分の無知を自覚できない
などのような意味として、ネット上などを中心によく用いられています。
よく見かけるのが、以下のようなグラフです。

見たことがある人も多いのではないでしょうか。
「バカの山」「絶望の谷」など、インパクトがありますよね。
また、非常に説得力があるように感じますし、様々な人がこのグラフを紹介したり説明したりしています。
著名人でも、ダニング=クルーガー効果について言及している人は結構います。
しかし実は
ダニング=クルーガー効果の基となった論文には、このグラフは存在しない
という事実があります。
実際の論文に出てくるグラフは、以下のようなものがいくつかあるだけです。

多くの人が引用している「バカの山」のグラフは、論文の原文には存在せず、誰かが作ったものだと考えられます。
ラーニングピラミッドと同じような感じです。

また、グラフの件は置いておいたとしても、ダニング=クルーガー効果自体が科学的根拠が乏しいとも言えます。
では、なぜダニング=クルーガー効果の科学的根拠が乏しいのか、そしてダニング=クルーガー効果は信じない方が良いのかについて説明していきます。
科学的根拠が乏しい

ダニング=クルーガー効果は、Cornell大学のダニング教授とクルーガー教授の論文によるものです。
その論文で行われた実験は
1.学生にテストを実施
2.各自に得点や順位を予想させる
3.実際の順位と比較する
というものです。
その結果、導き出されたのが以下のようなグラフです。
(このようなグラフが数個あります。)

一見、実際の能力と自己評価を正当に比較できそうな実験に見えますが、この実験には問題点があります。
大きな問題点として
・対象者が同じ大学で、同じようなレベルと考えられる
・対象者が45人と、圧倒的に少ない
・横軸が4単位しかない
などです。
(また、縦軸がpercentileなのもこの場合は適さないように思えますが、わかりにくくなるので割愛します。)
被験者全員が、同じ大学の同じ講座に所属している生徒なので、そもそもそれぞれに大きな能力の差が無いと考えられます。
ですから4つに分けている優秀度の間には、わずかな差しかない可能性があります。
しかも被験者の数が45人という人数は、有意差があるというにはあまりに少なすぎると思われます。
さらには、横軸が4単位しかありません。
被験者の数の問題か、テストの設問数などの問題かわかりませんが、4単位は少なすぎる要も感じます。
要するに、この研究は結果ありきでデータを見せているように感じる部分も多々あり、一般的に言われているダニング=クルーガー効果の根拠としては乏しいと言えます。
ダニング=クルーガー効果の研究のきっかけは、「レモンジュースを顔に塗ると防犯カメラに映らなくなると思っていた」という銀行強盗の事件です。
その事件を知ったダニングさん達は、そこに普遍的な教訓があるのではないかと考え、実験をしたそうです。
ちなみにダニング=クルーガー効果の論文は、2000年に「世の中を笑わせ、考えさせてくれる研究」に贈られるイグ・ノーベル賞を受賞しています。
「バカの山」「絶望の谷」はある

では、ダニング=クルーガー効果としてよく用いられるこのグラフは、全くあてにならない意味の無いものなのかと言えば個人的にはそうは思いません。
(ここから先は、個人的見解になります。)
確かにこのグラフは科学的根拠は乏しいですし、縦軸・横軸共に曖昧で程度の問題として適切かどうかわかりません。
しかし、傾向としては概ね間違ってはいないように思います。
個人的には、あらゆることに関して人による程度の差こそあれ、「バカの山」「絶望の谷」は存在すると思います。
仕事にしても、何かを学ぶにしても、最初のうちはどんどん上達したりわかるようになっていく実感があります。
そして
「自分は出来る」
「自分は理解している」
というように感じるようになります。
まさに「バカの山」です。
しかし、その後も修練や勉強を続けていくと、それまで見えなかったものが少しずつ見えるようになっていきます。
そこで初めて理解するのは
「自分は出来ないことがたくさんある」
「自分はまだ何もわかっていない」
ということです。
それまでよりも見える領域が増えたことによって、自分の無力さが理解できてしまうようになります。
そして、まだまだ先は果てしなく長く、ゴールは全く見えないことも気づきます。
まさに「絶望の谷」です。
ここから先は、中々しんどいものがあります。
レベルが上がったり知識が増えるほど、ゴールが遠ざかっていく感覚です。
というよりは、レベルが上がったり知識が増えているのかすら、自信が持てなくなっていきます。
答えが見つからない状態でもあります。
「おそらくあらゆることに明確な正解は無いのであろう」
ということが何となくわかってくる段階だと思います。
このようなことを理解できるようになると、何事も多面的に見なくてはならず、答えを断定するのは非常に危険だということがわかります。
実際に、頭の良い人やよく学んでいる人は、物事を断定的に捉えたり主張したりすることは少ないと思います。
それに対して、自分の主張を絶対的に押し通そうとしたりする人は、能力の低さや知識の浅さを感じます。
このように、自分自身の体験や周りを見たりすることで感じることから、「バカの山」「絶望の谷」は存在すると思います。
しかし、その先の「啓蒙の坂」「継続の大地」に関しては、自分自身がそこに行きつけた経験がないため、まだよくわかりません。
自戒に有効

但し「バカの山」や「絶望の谷」の存在は、あくまで感覚的なものであり、科学的根拠があるわけではありません。
ですから他人に説教するような流れで使うのは、無責任で適さないかもしれません。
しかし、自分自身の自戒に使うのは有効ではないでしょうか。
多くの人があのグラフは腑に落ちるからこそ、世の中に広がっているわけです。
ダニング=クルーガー効果として説明するのは間違いかもしれませんが、自信と能力の相関性を上手く表していると思います。
言ってみれば、ダニング=クルーガー効果と言っていいかはわからないものの、良いツールなのです。
自分に自信があるときほど、あのグラフを眺めて自分をいさめるのは、悪くない使い方だと思うわけです。
まとめ

・ダニング=クルーガー効果は科学的根拠が乏しい
・とはいえ、実態をわかりやすく表していると言える
・自戒に使うのは有効
様々なことについて学べば学ぶほど、明確な正解は無いのだということを痛感します。
あらゆることは、白でも黒でもなく灰色です。
それを白だの黒だの断定する人は、まさにバカの山にいるのかもしれません。
ですが、それをすべて否定するのも違うと思うのです。
バカの山があるとして、その山に登った人と登ってすらいない人では、登った人の方が前に進んでいるわけです。
そしてバカの山を越えれば、より先に進むこともできます。
誰もが通過するべきところなのかもしれません。
大切なのは、その時の自分に満足せずに一歩ずつ進み続けることなのだろうと思います。
そうすれば、いつかは「啓蒙の坂」「継続の大地」に到達できる・・・・のでしょう・・・きっと。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。